査定の失敗

不動産業者にとって、切っても切り離せないのは査定です。売買であり、賃貸であり。常に査定は重要なポイントとなります。

「いくらで貸せる?」「いくらで売れる?」…確かに気になります。そりゃそうです。私自身もモノを売るときにはいくら位の価値なんだろう?って気になります。それでは、今回は賃貸についての査定にフォーカスしてみましょう。

ちなみに、新築から間もない状態で管理が移管されるケースのほどんどが「査定」に失敗したケースです。これは弊社にとっても重い作業の一つなので、今回はそのケースを紹介します。

中古で購入した場合は、査定も何も過去の運用から、現在の相場と比較した査定が用いられる事がほとんどで、アレンジの幅も新築と比較して狭くなります。いわば中古AT車みたいなもので、「あぁ、こんな感じね」とイメージは付きやすいでしょう。

問題は新築で、そもそも新築時はだれが査定しているのか?によって大きくブレます。当然ながら、市場価値に合わせた設定であれば問題は少なくなります。ただ、それがグロス利回りだけから算出されたものであれば…時折悲惨な事件が発生します。

実例

【郊外・2LDK(55平米~58平米)・RC16戸】

その物件は新築から3ヶ月、16部屋中4部屋しか入居していない物件でした。ちなみに3月竣工のため、ハイシーズンを過ぎてこの状態なので、まぁなんとも…の状態です。建築時に、業者が作成した運用シミュレーションを見てみると…ありゃ。賃料8万円。この周辺相場、6万位なのに…。ってことは、素晴らしい意匠が施された建物なんだろうか…なんてそんな都合の良いことは起きず、ごくごく一般的な「どこにでもある仕様」。あぁ、なるほど…グロス8%に無理やり合わせるために、見た目の賃料を引き上げ査定したのか。よくこれで金融機関も通したなぁ、なんて思っていたら、落とし穴はまだまだありました。

■OPEX抜け

OPEX(Operating Expense)、運営費の事です。この項目、管理費●%という記述と返済費以外が全てすっぽ抜けていて、中々香ばしい感じが…。初年度はADだけでも相当の支出であり、そして20台近くの駐車場の除雪料(従前の管理では除雪あり、で募集中)が入っていない。というか本当に空白。その状態で年間CFは570万超の記述。10年保有したら税引前CF5,000万。富豪やないかーい、とちょっと軽く現実逃避しながら、「あー、またコレ、重めな話から入らないと行けないなー…」と、見積もりを取り出しました。

■宣告

つまり、「入居付けが非常に困難な設定→賃料を再査定」「運営費再計算→CF減」という同時進行でオーナーにとっては最も嫌な事を宣告しなければなりません。とは言え、ここで上っ面の話をしても全く意味がないので、余すところ無くお伝えしました。当然オーナーも深刻な表情を浮かべましたが、立ち止まっていても意味が無いためにすぐにご理解をいただくことが出来ました。ちなみに、大規模修繕の積立も抜かされていたので、15年ペースの修繕費用も計上しています。

■改善

ちなみに、管理の運用もまずまずアレな状態でした。札幌の物件を運用する場合、除雪を加味するのであれば、除雪時の「雪堆積スペース」は検討材料として上がります。除雪は大きく分類すると2種、除雪か除雪+排雪です。除雪は雪を一定の場所に溜めておき、1ヶ月や2ヶ月に一度その山を取り除く簡易スタイル。常時排雪が入る、除雪+排雪は当然コストが上昇します。費用は前者が年間40万、後者が55万。セオリーで行けば、一番奥の駐車場を非稼働にして、簡易式でやることがベストです。だって、ここの駐車場6,000円で稼働させているわけですから、2台で潰しても年間12万。稼働しても3万マイナスです。しかも一番奥なので、軽自動車限定の狭い場所なので、リーシングも弱い。

…あー、なるほど。4組しか入居していないのに、一番奥に契約しちゃった人がいるんだ。その手前も。なるほど。雪捨て場が使えないな。除雪スペース?考えてなかったんですよー、という前管理者に軽くイラッとしつつも、改善は続きます。

※その契約者に移動して貰えばいいじゃん、というお声もありますが、今回は事情により断念しています。

■常時排雪のため、クオリティの高い除雪提供が出来るために駐車場料金を若干上昇

■除雪費用年間1.5万入居者負担

■家賃の下落と組み換え

■ペット飼育の規約緩和

メインはこの4点。家賃は1フロア4部屋、南も北も変わらない金額で、1層上がるたびに1,000円上昇…的な簡易設定だったので、1階の北側を最も安く、それに応じて全室再構成。最優先は止血(返済手出し)なので、ペット規約緩和して各種2匹までの多頭飼いOK、ペット清掃料30,000円税とペット賃料1,000円アップ。(ペット礼金にしなかったのは、入居費用に影響を及ぼしたくなかったため)

新築で常時流血中(資本垂れ流し)なので、資本投下の改善が難しいと判断し、ひたすら条件調整に回りました。

■ターゲットの変更

前管理会社では、地場の仲介業者を中心に営業周りを行っていたそうです。それがそもそもの間違いであることに気づかず…そりゃそうです、目の肥えた地場の仲介業者は、いくら資料持ち込みしても、商品価値の薄いものは見向きもしません。地主と投資家では、保有ポリシーが異なる点と、賃料設定にも大きな開きが生まれるケースが多々見受けられます。つまり、地場エリアの仲介は地主(優良物件)との連携が強いので、無理にバリューの低い物件に顧客を寄せる必要も無いわけで。

そんなこんなで、エリア外に完全にターゲットを絞りました。WEB戦略オンリーです。ちなみに、とあるきっかけから「仲介業者挨拶」は弊社では行っておりません。これはまた別の機会に。

■目標の設定

開始が6月、満室想定は翌年3月と9ヶ月の満室想定に設定しました。当然ながら、1日でも早い満室を目指すのがセオリーです。但し、急激な変化は建物ブランドを損ねるだけではなく、今後も「安い建物」としてのイメージしか残らないので、返済手出しが無くなる10室入居を3ヶ月間、残り6部屋はペースを落として市場に馴染ませる設定です。まずは「決まる」イメージを市場に落とし込むべく、構成しました。

■結果

完全に予定通り、3月満室達成です。ものの見事に全部屋、他エリアの仲介業者からの申込みでした。結果的には当初よりも全体的な収入も増え、約1年がかりのミッション達成です。

■まとめ

今回のケースで言えば、建築費用+土地取得費用から目標利回りに達することを目的とした設定…という点が大きなミスです。何が最も良くないか、と考えた時、「人の顔の想定」が皆無だった事です。仲介業者の皆さんが物件を紹介する時に、顧客はどのような反応なのか?そもそも、仲介業者の担当がどのような表情でこの物件を紹介するか?入居した後のリアクションは?等々、基本が全てすっぽ抜けた、正に机上の空論であった事が大きな要因です。

当然ながら、イレギュラーケースであり、多くの建築会社の査定は正しいものがほとんどです。ただ、おかしいと感じたらすぐにセカンドオピニオンをエージェントや管理者にすべきでしょう。なんせ高いお買い物なので…。